列車
インドの列車の旅は、まずそのにおいに慣れることから。
駅も列車も、トイレと何かの混じった何とも言えない臭さ、日本に比べると列車も汚くて、始めは旅が憂鬱だった。
だがこのにおいも汚さも、旅をする間の一時的なものだと割り切ってしまえば慣れるもの、すると気持ちも自由になる。
列車の旅は、とても楽しいものだから。
予約をする時には、できれば窓際のサイドシート(Side Seat)がおすすめ。
3Tierの寝台車でも、サイドシートだけはベッドが2段なので、窮屈な思いをしなくて済む。
ただ、冬の時期(11月から2月始めごろまで)2等の寝台列車で旅をする時にはブランケットは厚めのものを用意しないと、寒くて眠れないことがある。
列車の中には色々な人たちが行き来する。
ビスケット売りや、サモサ売り、雑誌売り、パニ(水)ワラ、なぜか盲目の人の多いおもちゃ売り、床掃除の少年、乞食たち、おそろしいオカマたち。
でも何といっても一番のお気に入りは、
「チャイ、チャイ」
「コフィー、コフィ」
と、チャイワラ、コーヒーワラ。
夜中眠っているときに、彼らのこの掛け声が車内にこだましていると、なぜか安心する。
列車が大きな駅に着いたら、少なくとも10分ほどは停車するので、プラットフォームに出てみよう。
独特のコスチュームのムスリムの人たちが即席で場所をこしらえ、祈っているのが見られる。
わたしはコーランの調べを聴くがとても好きだ。
見送りに来た家族たちが別れを惜しむ様子、フルーツを売りに来るオジさんたち、他の旅人たちなどの喧騒に混じって、その場所だけはぽっかりと神聖な穴が開いている。
インドの大地を駆け抜ける、Express(長距離特急)の旅の楽しさも独特だが、比較的近距離を、各駅停車でゆっくり進むPassenger(鈍行)の旅もおもしろい。
予約の要らない切符、ということは混み具合によっては席を確保できる保障がないことはおろか、立つ場所があるかどうかもわからないし、座れてもイスは堅くて公園にあるベンチのよう。
すこしキツイが、インドを支える圧倒的多数の庶民たちでひしめき合う車内は、迫力がある。
荷物棚で寝ている人も、鈍行列車に乗って初めて目撃した。
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